コスメテクノ 小田原オフィス責任者
              佐藤昇正
    偶然と必然
 
 その日も残業で疲れ果て、作りかけの口紅をビーカーに残したまま帰ることになりました。溶かして固めたオイルベースにゴミが入らないように普通はポリシートを被せシールするのですが、それも面倒で手抜きしてビーカーを逆さにして帰りました。
 さて、翌朝来て見るとオイルベースはビーカーから抜け落ち、実験台にペッタリ付いているものが1つだけありました。あーあゴミがついてしまったではないか。まず思ったのはもう一度最初から作り直さなければならないということでした。しかし、抜け落ちたオイルベースの表面を見て、びっくりです。鏡面のようにつるつる、ピカピカになのです。
 口紅を始めて約1年と半年。この間に試作した数が約1500余り。こんなものは見たことがない。
 実は、この口紅が発汗しない口紅だったのです。1500分の1で行き当たった偶然はその後、カネボウの口紅やリップクリーム、油性ファンデーション等の全ての基本になりました。
 偶然はめったに起こらなくて、驚く事柄であり、確率が低いからと言って切り捨てられてはいないでしょうか。
 典型的には、工場の生産管理に於ける基本的な考え方によく見られます。
 一定の手順、方法で生産され、一定の規格品質で管理され、良品率や不良率でその生産性が論じられる。生産品が全数検査される場合には、コスト的に正論ですが、もし全数検査されなくて一定数の抜き取り検査であれば、いずれの場合も規格に合わない不良品が良品のラベルを貼られ工場から出荷されてしまうことになります。
 生産工場、研究所、販売の部門を持つ組織の場合に、各組織のスペシャリストが同様にこの不良率や良品率の生産統計的な考え方に陥ってはいないでしょうか。
 良品が生まれるのは必然、当然で、不良が生まれるのは偶然でしょうか。
 偶然とは確率の低い必然ではないでしょうか。
 世の偉大なる発明発見に必然的に見出されたことがあったと思いますか。
 私見ですが、スペシャリストとは希少価値である偶然に遭遇するために日々悪戦苦闘し、その偶然を必然に変えてしまえる人のことだと思っていますが、どうでしょうか。
 ここからが本題で、尚且つ、問題です。
 発汗の原理を理解して、発汗しない油性化粧料を作ってください。
 口紅に代表される油性化粧料の発汗(正しくは発油と言ったほうが正確ですが・・・)は、何故起こるのでしょうか。
 次項でその原理を簡単に説明します。
口紅開発秘話物語