the 4th stage 
 8月3日から8月6日まで

8月3日 CARRION DE LOS CONDES まで (25,2km)

 

朝食をアルベルゲで食べ、6時半に出発。
涼しくて歩くのが楽だった。 その上、道の横には運河が流れ、水を感じながら歩くのだから、気持ちがいい。
途中で,昨日会ったジュンコさんに会う。
彼女の荷物は見るからに重そう。 寝袋も大きい。水を入れるペットボトルのカバーも持っている。 1gでも減らそうと、やっきになっていた私とは違って、おおらかである。
彼女とは、この日何度か会ったが、泊まる場所が違っていたため、もう会えなくなった。
グリちゃん、あけみさんと三人でバルに入り、ビールを飲みながらランチをとる。 若い女性が一人できりもりしている店だった。 すっかり疲れを癒し、ぼ〜っと時間を過ごす。
今日の目的地まであと6km。

カリオンに着くとカルメンに街角で遭遇。
二日ぶりの再会に喜び抱き合う。
こうして、私たちは、会ってまた別れてを繰り返す。
そして、この日はアルベルゲが満員であるらしいことを知る。

巡礼仲間に教えられて行った場所の、やさしそうな修道女さまに導かれた先は、 広くはないが、学校の施設のようだった。 そこにマットレスが敷かれているだけのものだった。 その部屋にはラウラやミッチェルもいた。あまり清潔とは言えないマットレスに寝袋を敷く。
居心地が悪いので外に出て、夕食を食べる場所を物色していると、 パキ、アンヘル、ホアン、ジョセフィーヌに会った 。
ここでも二日ぶりでも感激の再会場面となる。
ホアンの眉間には傷あとがあった。 それは、水飲み場の蛇口に顔をぶつけたためだった。 そう言えば、そんなウワサを聞いてはいたが、それがホアンだったとは。
パキはこれから景色のいい場所に行くと言うので、ついて行こうとすると、 急に大粒の雨!さすが主婦歴の長いグリちゃんが、洗濯物を取りに行くと 走り出すので、私たちも戻ることにした。
洗濯物の片づけも済んで、今一度町に出るが、なかなか美味しそうな店がない。 結局最初に通 った時には開いていなかったアルベルゲの近所のレストランで食事になる。
このあたりから、不自然にホタテ貝を胸にぶら下げた一行の団体に会うように なってきた。彼等はバスで回っている。
普通の巡礼者とは一見して、何か匂いが違っていた。 そんな人達もたくさんいる、忙しいレストランでの食事は、値段もリーズナブルで、 野菜をたっぷり取り、栄養をつけた。

8月4日    SAHAGUNまで (39,5km)  

 

6時発。
今朝ちょっぴり緊張しているのは、17,2km地点まで、バルも村もないことである。 ここまで長いあいだに何もないという事は珍しい。
道はまっすぐで、赤い土と石ころがゴロゴロして歩きにくい。 そろそろ休みたくなった頃、コンクリートのベンチがあり、そこで朝食にする。 ベンチはとてもひんやりして、居心地が悪かった。
そしてまた歩き出し、やっと今日一つ目の村に辿り着く。
ここには商店しかない。 飲み物と果物を買い、休んでいると、カルメンもやって来た。
みんなキツイらしく、店の前に座り込んでいる。 そこで何回も、果物や飲み物を買った。脱水状態だ。
さらに6,2km先に歩いてバルに入った。 ここではビールを少し飲み、一人で座っていたかわいい5歳くらいの男の子と、 無理やり乾杯を強制する。 恥ずかしがっていたが、ちゃんとつきあってくれた。 なんともかわいい。

さらに2,8km歩いてやっと今日の目的の村にたどり着いた。 アルベルゲにはパキたちが先に着いていた。
着いたばかりの私達に、なんと彼女は
「今日は更に13,3km歩いてサグーンに行くわよ。」と言う。 やっと辿り着いたという感じなのに、これから13km!?
しかも朝はバル無し17kmを歩いたと言うのに。
でも、私はパキたちについて行きたかった。
グリちゃんは、ここが気に入ったから、ベッドを取ってくると言って受け付けに 行ってしまった。 あけみさんもここにとどまるということなので、グリちゃんも心配ないだろう。
私は最初から決めていたように、何の疑問もなくパキたちについていくことにした。
時間は午後2時くらいであったが、これからパキたちは食事をすると言う。 私はお腹がいっぱいだったので、外で休むことにした。
庭にはイリデがいて、彼女が飲んでいたビールを勧めてくれる。 ありがたく一口いただく。
今一度、パキ達が食事をしているところに行くと、大所帯で丸いテーブルを 囲んでいて、私もサグーンに行くと告げると、みんなが歓声を上げて 歓迎してくれた。
そして出発まで、あけみさんと一緒にバケツに水を張り、塩水を入れて足を冷やす。 ちょうどそこの水は井戸水だったので、いつまでも水は冷たく気持ちが良かった。
私たちは二日後のレオンで会うことにした。 待ち合わせの時間と場所を決めておかなければならない。
レオンのアルベルゲは何箇所かあるかもしれない。
ちょうどそこにフェルナンドが通りかかった。
フェルナンドとはそれまで話をしたことがなかった。 いつの頃からか、毎日一回はすれ違うう人で、必ずニコッと笑い、振りかえって手を 振ってくれる人だった。
たまたま前日に、フェルナンドの名前をパキから聞いていたので、思いきって、 呼び止めて、レオンではどこのアルベルゲに泊まるか聞いてみた。
彼は躊躇することなく、ペンを走らせその名前と住所を書いてくれた。
その時は不思議に思わなかったが、彼は大学時代の5年間をレオンで過ごしたので、 レオンに詳しいため教えてもらえたのだった。
こんな風に、いつも何かが必要な時、それに答えるべく人が目の前にいてくれる のが、このカミーノなのだ。

3時を過ぎ、4時に出発すると言うパキたちより、一足先に村を出ることにした。 ゆっくり歩きたかったからだ。
パキたちが4時に出ると言ったのは、少し涼しくなるまで待とうと思ったからだろう。
支度をしていると、フェルナンドもそばにやってきて、自分もすぐ出ると言う。 こちらの人のすぐ(in a minutets)は、けっこう長いのでアテにはならないと思いながら、あけみさんやイリデ達に見送られながら 一人で出発する。

アルベルゲを出ると、いきなり草原。
こんな時間だから誰も歩いていない。
見渡す限り誰も見えない。
家も動物さえもいない。
でも、生き生きとした大地。
花や草は光を反射してきらめいているし、風にも揺れている。 なんて気持ちが良いのだろう。 ものすごく爽やかである。
大手を振って気持ち良く歩くので、かなり早いスピードだったと思う。
しかし、その気持ち良さはどこからくるのか考えた。
ふと、手をみると・・・・・、 あっ!杖がない!! 両手が自由なわけで、それが気持ち良かったのだった。
どうしよう・・・、こんなに気持ちがいいのなら、いっそのことなくなっても いい。
でも、最後のセブレイロ峠では必要になるだろう。
あまりに闊歩しすぎたお陰で、すでに数キロ進んでしまった。 さっきの村から次の村まで3.8km、村を出たのが3時20分だから、頑張れば 次の村に着くまでに4時に間に合うだろう。
そこからパキの携帯に電話をすれば、もしかしたら持ってきてもらえる。 杖を置いてきた場所は荷物を置いていたレストランの入り口である。

私は半分走りながら村に辿り着いた。
確かに集落はあるが、バルもお店も ないような過疎地だった。 むろん公衆電話もない。人も歩いていない。家はあってもドアは閉ざされている。 こうなったら誰かを探すしかない。
私は小さな村を歩き回った。
そこに村人がいるのを発見!!!
どんな人であろうとかまわないから、とにかくつかまえて電話を貸してくれと頼んだ。
彼は家の中に入り、携帯電話を片手に持った女性を、希望通り連れてきてくれた。 二人とも英語は全く通じないので、カタコトのスペイン語を駆使してわけを説明して、 電話を使わせてもらう。
電話の向こうからは、パキの明るい声が・・・。 私はあせってしゃべるし、パキも電話で英語の会話は苦手のようで、的外れな ことを言って笑っている。
あ〜〜〜っ! ダメッ、駄目ッ!ダメだァ〜!!!
全く通じない。

そこへ突然現れたのは、フェルナンドだった。 私はフェルナンドを呼び止め、ことのあらすじを説明し、もしパキ達がまだ村を 出ていないのなら杖を持ってきて欲しいと私の代わりに話してもらうよう頼んだ。
杖がある場所はフェルナンドも知っていたので、説明が早かった。 二人の会話はわからないが、フェルナンドは電話を切ると、もし5分以内に 見つかったら、パキが電話してくれることになっていると言う。
その電話は、その女性の電話にかかってくるので、一緒に待つことになった。 (フェルナンドの携帯の電池が切れていたため) フェルナンドはその女性と巡礼の話をし、私はおじさんとコミュニケーション しようとするが、彼は紐をぐるぐると手に巻いている。それに意味があるのだろうと 見ているのだが、何も起こらない。
女性はそれを見て微笑んでいるだけ。 実は彼は頭が少しおかしい人なのだった。

5分以上たったので、フェルナンドが私にどうするか聞くので、もうあきらめると言うと、 この二人を待たせるわけにもいかないので、すぐそばのベンチで電話を待とうと提案してくれた。
荷物をベンチに置いてまもなく、女性のところに電話が入り、杖がみつかったと言う。
そしてここで、フェルナンドも一緒にパキを待っていてくれると言う。 4km近い道のりなので、時間がかかるので悪いと思っていると、 「30分くらい何でもないよ。」と言ってくれた。 電話を貸してくれた女性に電話代を払いたいと通 訳してもらったが、微笑んで、 『それはいらないわ』と言ってくれ、お金の問題ではないがこんな親切が また身にしみるのであった。

フェルナンドは、カミーノ沿いの村(サンティアゴから200km地点)の出身で、 幼い頃から巡礼者を見て育ったと言う。歩くのは今回が初めて。
いったい私たちはいつから一緒に歩いていたのか・・・。
彼はグループに入ろうとはしなかったので、私はなかなか認識できなかった。
二人のクレデンシャルを並べてみると、彼はパンプロ−ナからスタートし、今日までの 約10日間、毎日全く同じ日に、同じ村や町に滞在していた。 アルベルゲが違う場合はあっても、同じペースで歩いていたのだった。
一日一回すれ違うのは、彼が朝のペースは遅くて、そのあと一度、私を追い越すせいだった。

遠くから賑やかな声が聞こえてきた。 ラウラ&ミッチェル、そしてホアンだった。 三人はパキ達と同時に村を出たが、電話のおかげでパキとアンヘルは村にひき返したらしかった。
私は申し訳ない気がして困っていると、ラウラは、 「ほ〜んのちょこっとだだから気にしないで。」と言ってくれる。 みんなでパキ達が来るのを待ちながら、話をした。
ラウラ&ミッチェルはまだ新婚ホヤホヤのカップルだ。
彼等は英語を全く 話さない・・・と思っていたら、後に少しづつ思い出してきたのか、しゃべるようになったが、この頃は、二人でカタコトの英単語を言うだけで、 「私ったら今、英語でしゃべっちゃった!」 「すごいね!」なんて言い合っていた。 私もカタコトのスペイン語を駆使して、彼等の仕事は何か聞く。 ラウラは車の窓のゴムを作る会社で働いている。ミッチェルはワイン工場 で働いている。ミッチェルには部下が何人もいるということだった。 彼は気配りのできる、まごころのあるやさしいサービス精神にあふれた人柄だった。
ふたりはいつも一緒に歩いていて、そばを通ると、『トランキーラ(ロ)』と いう言葉が聞こえてくる。覚えておいて、後でパキに意味を聞くと 『go slowly』という意味だと教えてくれた。こんな風にいつもいたわりあって いる。
そろそろパキ達がくるかもしれないので、迎えに行く。
角を曲がると、ちょうど二人がやってきた。
こんなやっかいなことを頼んだのに、パキはいつものようにニコニコしている。 杖はアンヘルのリュックにくくりつけられていた。
私はみんなに礼を言い、歩きはじめた。 歩き始めて間もなく、パキからカルメンがデンマーク人の男性と急接近している話を聞く。 えっ?あの真面目で固そうなカルメンが!

私は休んでいたせいもあって足がどんどん進んでしまう。
『誰か私を止めてくれ!』 と言いたいほど、足が進む。
気が着いたら、みんなが見えなくなっていた。
遠くにサグーンの街が見える頃、道は二つに別れた。私は考えたあげく 旧道の、小さな教会を通 るコースを選んだ。 教会には地元の人がいて、中のステンドグラスは真っ赤と真っ青の二種類。 シンプルさが美しい。
そこへホアンが慌てたようにやってきて、私を連れ出し、一人でどんどん先に行ってしまう。 何を意味しているのかわからないまま、私もまたサグーンへ向かい、足を進める。
もう街はすぐそこのはずなのに、なかなか着かない。
そこへアンヘルがやってきた。 私は空の美しさ、雲の形やそこに映し出される光りがあまりにもきれいで、写 真を写す。
アルベルゲまでは遠かったが、途中線路を越えて、やっと三人で辿り着く。

受け付けに行くと、先着のフリオがいた。私はこの頃フリオの顔を覚えられなかったが、 知っている顔なのはわかっていたので、一応よそよそしく挨拶をした。 あとで、何度か会っているフリオだと気がついて、大笑いになったのだが、 覚えられる顔と、何度会っても覚えられない顔がある。
まだベッドはいくつも残っていたが、全員ばらばらになってしまった。 パキやラウラたちのベッドも確保した。 私は、パキへの責任も感じていたので、外に行き、迎えに行くことにした。 しかしかなり歩いて戻って行っても誰も来ない。私も疲れていたので階段で座り、待っていると、やっとラウラ、ミッチェル、そしてパキが登場した。
彼等はとても疲れていたので、手に持っていた荷物を持ってあげた。 三人は、さっきの小さな教会に入ったら、この街の特産のお菓子を貰ったから 良かったのだと話してくれた。
そしてミッチェルが私に今何時か聞く。 私は腕時計を見るが、時計がないので答えられない、すると、ミッチェルは 私の時計をポケットから取り出し、落ちていたのを拾ってくれたと言う。 この時計は安物で、アラームが付いているので旅行の直前に買ったもの だった。時々腕から抜けるクセがある。そんな時計だが、ないと不便なものである。

今日は二つも無くしものをしたのに、無事に私に戻ってきた。 アルベルゲに近づくと、今日の宿はどこにあるか聞かれたので、遠くの山を指差 したら、 『あなたは私たちの仲間ね』と笑われた。
時間も遅いので,近所で買い物をし、アルベルゲで食事をすることになった。 すでにホアンとフェルナンドがテーブルについていて、疲れていたが、みんなと 一緒の食事は楽しい。
ホアンは食事の時は、いつもナフキンを持っている。彼はそれでネズミを作って動かしてみんなを 笑わせる。私も知っている限りの折り紙の技を使って対抗する。 フェルナンドにナフキンが回ってくると、思い出しながら、考えてばかりで手が すすまない。彼はあれこれ折ったあげく、何もできない。 不気用で実直なのだ。
シャワーを浴びると10時をすでに回っていた。
このアルベルゲはとてもいい感じだった。大きな部屋に木で作られたベッドが 作りつけられているのだが、古い建物をそのまま上手に利用し、梁などは残して 近代的になっている。
私は隅っこの個室のような場所をみつけてもらい そこでゆっくり休むことができた。

8月5日   RELIEGOSまで  (24,3km)

 

今日は5時半に起きて顔を洗った。
昨日髪を乾かさないで寝たものだから、 髪型が激しいことになっていた。
フリオはすでに支度が完了している。 彼は朝はいつも早い。 パキ達が遠くに見える。大きな部屋の、端と端なのだ。見通 しは良い。 見ると、まだのんびりしているので、すぐ出掛けられるように支度だけ整えて、 ベッドでゴロゴロしていると、7時に迎えが来て、7時10分に出発。
最初の村までは10km。みんなで揃ってトルティーヤとココアの朝食。 そしてさらに7km余り。 いつの間にか、パキ&アンヘル、ラウラ&ミッチェルと別れ、先に次の町に着く。
バルを探して地元のおばさんに聞くと、一緒に歩いて案内してくれた。
いったん店内に入り、靴を脱ぎに外に出た時、パキだけがぐったりした様子で 着いたところだった。彼女はゆっくり歩いていたのに、意外と早くやってきた。
「私も何でこんなに早く歩いたのか、不思議なのよ・・・。」 そして・・・、疲れているので、今日はここに泊まると言う。 今朝決めた目的地まではまだ10km以上あるというのに。

私はこれからの歩きに備えて、ビールはやめて炭酸入りの水にする。 ゆでたまごとサーディンの酢漬けを注文する。 値段は全部で1ユーロだ。やけに安い。少し食べたらお腹がすいてきたので ポテトと牛肉の炒め物も頼む。すると、それはサービスだからタダだと言う。 なんていい店なんだろうと、パキに言うと、この辺りの地域では、飲み物を頼むと、 無料のタパスが出されるというのだ。なんていい習慣!
そこへラウラ&ミッチェルがやってきた。 実は、ミッチェルの胃の具合が悪く、朝食を食べて以来4回も、もどしていると言う。 それで二人はアルベルゲではなく、今日はオスタルに泊まると言うことだった。 私はレオンに早い時間に着いて、街を見たかったので、やはり予定通 り、 今日じゅうに、次の町まで行く決心をした。
実際まだ元気がありあまっていたのだった。
商店で果物と水を買って、ミッチェルが治ることを祈り、先を急ぐことにした。 アルベルトも次の町まで行くという。

私はバルを出て、適当な方角に進み、振り向くと、パキがバルの窓から顔を出し、 微笑みながら、反対の方向を指している。いきなり別の方角に行くところだった。
パキはいつも心の奥底から親切。こんな風にしたいと努力しても出来るものではない。 彼女のは、思いやりは、反射神経なのだ。 歩き出すと、羊の群に出会う。 羊たちと同じスピードで歩く。ロバもいる。
のんびりしていて楽しい!
ロバは道を外れ、犬に吠えられている。
とうとう羊たちが牧草の彼方に消えていくと、今度はひたすら退屈な道となった。
車道の隣の歩道を歩かねばならず、車はたまにしか来ないが、アスファルトが 暑さを強いる。
途中のベンチで昼寝をし、また歩き始めるが、延々と同じような景色は続く。
行けども行けども町は見えない。
ほとんど人にも車にもお目にかからない。
こんな時間にこんな場所を歩いている人間は私だけなのだ。

炎天下の中、突然町が見えてきた!
そこにはアルベルト、フェルナンド、フリオ、ホアンといった、早足メンバー が揃っていた。
同じ苦労をしてきたので、妙な連帯感が生まれるものである。 部屋では、フェルナンドもホワンも昼寝の真っ最中。
私もすぐに休みたかったが、お腹もすいていた。 ちょっと早いが夕食を食べよう。
今日は野菜をたくさん食べたい気分だったし、 外で食事も億劫だったので、キッチンで簡単なものを作ることにした。
シャワーと洗濯を済ませ、買い物に行く。
喉は乾いているし、お腹は空いているしで、一人分とは思えない量の食材と飲み物 (水分:缶ビール&水1,5L&パインとココナッツのジュース)を買ってしまう。

キッチンは清潔で使い易い。 そこには先客がいた。
黄色いTシャツのおじさん。 見かけない顔なのは、自転車で来ているからだろう。 私たちは、お互いを意識しながら料理にかかる。
おじさんはパスタを茹でている。 トマトソースの方もうまく出来上がってきている。 おじさんは、Mr.ビーンのような人で、言葉を発っすることはなく、無口かと 言えばそうではなく、う〜っ!とか、あ〜っ!とか音を発する。 私は、料理と呼べるようなものではないが、モロッコインゲンを茹でて、オリーブ オイルと塩で味付けする。 あとは、トマト、コーンの缶詰、サーディンの缶詰を皿にあけるだけ。他にパンと桃。
私はそれらをテーブルに並べ、椅子に座った。 おじさんも用意ができてテーブルについた。
そして私がビールの缶を開け、ちょっぴり優越感に浸った時、おじさんは 『そうだ!』という感じで、思い出したように立ち上がり、ワインのボトルを 持って来て開け、優雅に飲みはじめた。
私たちはこれ以上コミュニケーションをしなかったが、お互い満足げに食事をたいらげた。
食事が済むと外に出て、バケツを探し、水を張ってのんびりしていた。 フリオとホアンが買い物の袋を持ってきた。彼等もクッキングするようだ。
この回りには、不思議な形の家がある。屋根まで土で覆われている。
人が住んでいるとは思えないので、 何か聞いてみると、そこでワインを作っているらしかった。

8月6日  LEONまで (24,3km)

 

ホアン、フリオ、フェルナンドと私の4人は、今日は妙な連帯感で結ばれていた。
昨日のように、同じ道を歩き、同じ苦労をしたからこそわかるものだった。
ホアンは私たちの人数を数えて出発。(アルベルトはすでに出発していた)
最初の5km地点で朝食という予定が決まり、付かず離れず歩いていた。
私は歩きはじめて、足の異変に気が付いた。
両足とも、かなりの違和感が あるのだ。 もしや歩き過ぎて、足が浮腫んだとか、変形してしまったのか。
心の中で、これはまずい・・・と心配だった。

最初の村まで、みんなに付いていくことが出来た。
そこで朝食をとる。今日は朝方から陽射しがあり、暑くなりそうな予感だ。
いつものように、靴を脱ぎ、中敷を出して汗を乾かす。まめにこれを しないと肉刺ができるからだ。
オレンジジュースを頼むと、新鮮なオレンジを5個使い、楽しい機械で絞っ てくれた。
同じく肉刺に悩むフリオも、ここで治療を始める。
休憩風景を、 デジカメのムービーで撮影していると、フェルナンドにカメラが向いた時、 歌を歌ってくれたのだが、実は録画されていなくて、やり直しをしたが やっと3回目で撮影成功。三回歌ってくれた。ホアンの投げキッスと、フリオ の肉刺で痛々しい足も撮影した。
食事のあと、靴に中敷を戻そうとしている時、中敷が左右逆になっていた ことに気がついた。 そうか、真っ暗な中手探りで支度をしたので、逆にしていたのだった。
正しい位置に戻すと、びっくりするくらい足にフィットしている。
ここから8kmの間はフェルナンドと一緒に歩く。
フェルナンドに、さっそく靴の失敗談を話すと、 『それはスチューピッドなことじゃないよ』と真顔で言われ、真面 目な人 なんだなと思う。
基本的にスペイン人は真面目でずうずうしいところがない。むしろ自己主 張には控えめな印象だ。 お世辞を言うわけではないが、相手の気持ちをリラックスさせてくれる。 それは、相手を思いやる気持ちだと思う。
この場合は、私の好みとしては、一緒に笑い飛ばして欲しかったが・・・。
 フェルナンドは、この1月から6月までアイルランドでアルバイトをしな がら英語の勉強をしていたと言う。 サンティアゴまで行ったら、再び3ヶ月間アイルランドへ行き、スペイン にもどってクリスマスを過ごした後、兄がいるマイアミ(USA)に3ヶ月 間行くと言うことだった。
今日向かうレオン大学では会社関係の法律の勉強を5年した。 そして数日後の8月11日で28歳になると言う。

そんな話をしているうちに次のバルに着き、再び4人の点呼の後、そしてひと休み。 あと10数kmでレオンだ。ここからは屈強な男たちとは少し遅れて歩く ことにする。
前方ではフリオ、フェルナンドとホアンが漫才でもやっているかのように、 じゃれあって笑いあっている。 常に三人の後ろ姿は見えていた。
レオンの区域に入る手前はきつかった。
目の前に坂道。
真っ白い土の道が太陽を反射し、私に対して挑戦的だ。
この坂を上れば何かが開けると信じ、下から見えていた頂上に辿り着くと、 その先にまた同じような坂道が出現する。
そしてそれが何度も続くうち、3人の姿は、少しづつ小さくなっていった。
それがやっと終わった頃、私は一人でバルに入ることを密かな楽しみにし ていたが、そこからブルゴスの入り口の時と同様の、工場地帯になってし まい、バルは見つからない。
ただし、ブルゴスの時と違って、その区間はそう長くはなく、また、幸い にも巡礼者用の道は、少しだけ別 にそれてあった。
しかし、日陰も無いようなところだから、腰を下ろすところもない。
歩いて行くと、歩行者用の橋があった。
青くペイントされた鉄の欄干で、歩道は木でできている。そこにわずかに 欄干の影をみつけた。
私にはそこが気持ち良さそうに見えた。
もうすぐレオンの市街に入るのはわかっていたが、そこにリュックを下ろし、 太陽が真上にあるのを感じながら、その影に身を潜め、昼寝をすることにした。
リュックを枕にうとうとすると、とっても気持ちが良い。
ひと眠りした頃、橋が音を立てて揺れだした。
誰かが歩いてきたのだ。
とりあえずそのままの姿勢でいると、その人は太った大きな男性で、 通り過ぎた瞬間振り返って、私が生きていることを確かめ、水を飲むかと 聞いてきた。
とても親切だが、その時の水は、彼のリュックのホースにつながっていて、 (大きなストロー)それは、いくら死にそうでも飲めない気がした。

そろそろ行こうか・・・。私は立ち上がり、歩いていくと、間もなく大き な橋が見えてきた。
そこにホアンが立っている。いち早く私の姿を見つけると、フリオとフェル ナンドを呼んで、二人が飛んで来た。
三人でレオンの街の入り口で待ってい てくれたのだった。
私は昼寝までしてのんびりしていたのに(昼寝と言っても10分くらいだけど) 大きな街なのでアルベルゲを探すのも大変だろうと思って待っていてくれ たようだ。
その気持ちがうれしい。
彼等が待っていてくれるのは、心から親切な気持ちで、形だけのもので もなく、待つのが嫌ならそんなことはしないので、無理などしてい ないのだ。  
スペイン人は、待つことを何とも思わないのがいつも不思議に思う。
スペインでは待つのが仕事。スーパーのレジでもどこでも、じっと待つ。 いらいらしても時間が経つのは同じ。 『時は金なり』と育った私たちには考えられないが、忍耐力は相当ある と思う。

橋の真ん中にインフォメーションがあって、フリオがそこでもらった地 図をくれる。 もう、この橋を渡ればレオンの街だった。
歩きはじめてすぐに、フェルナンドが、あの通りに住んでいたんだと教 えてくれる。
街もブルゴスほど大きくはないのか、すぐに旧市街に入った。 レオンを知り尽くしたフェルナンドと一緒なので、スムーズに込み入った 旧市街を歩き、アルベルゲのある広場まで来た。 ブルゴスの時もブルゴスに詳しいカルメンと一緒に街に入ったり、偶然 なのだが、いつもとてもラッキーだった。
 
フェルナンドはアルベルゲの前の広場の小さなカフェを指し、そこのテ ラスによく座っていたと言い、思い出深い場所のようだった。
受け付けを済ませ、ベッドを当てがわれた後は、シャワーを浴びて30分 後に、待ち合わせて、遅いお昼ご飯を食べに行こうということになった。
フリオは中華が食べたいと言い、ホアンは通りがかりに見たセットのメ ニューが食べたいと言う。
結局ホアンの希望の、アルベルゲの近くの店に行く。 前菜、メイン、デザートにワインが付く。
ホアンはワインが大好き。 フリオは日本のアニメが大好きで、『千と千尋の神隠し』のCDも持ってきて 聞いているそうだ。お金が貯まったら日本に旅行したいとも言う。
私がオーダーした料理と、ホアンのものを交換したり、楽しい食事だった。

食後はカテドラルに見学に行く。中に入った瞬間その暗闇の世界に浮かび上がっ たステンドグラスのきらびやかさ、はっと息を飲む。
フェルナンドはここが一番のお気に入りの場所だと言う。
ゴシック建築の傑作で『光りと色彩のカテドラル』と言われている。
たくさんのヨーロッパじゅうの教会を見てきたが、単にりっぱであるとか、美しいのでは なく、感動的な印象深いカテドラルであった。
この後も案内してくれるということだったが、グリちゃんとの約束の時間が迫っていた ので、私だけアルベルゲに戻ることにした。
待ち合わせ場所で、ヒマだったので肉刺の治療をしてもらうことにした。 すでに最初の待ち合わせ時間より2時間近く経っていた。
それでもまだグリちゃんが来ないので、ぼ〜っと座っていると、同じくぼ〜っと座っ ていた日本人の男の人を発見。
彼等が歩いていることは、各地のアルベルゲに残されたノートに名前があったから 知っていた。 たいていは、私たちの一日先の場所にいて、追い付けないと思っていたら、とうとう 会えたのだった。 そのうち、相棒の従兄弟も現れて、どのくらいの時間話したのだろうか。 とても感じよい人たちで、巡礼中のエピソードから仕事の話まで、話がはずんだ。

そこへ疲れた顔をして辿り着いたのはパキとアンヘル、ラウラとミッチェルだった。 ミッチェルの胃の具合はすっかり良くなったということだった。
それを機に、それぞれに別れ、私はもうグリちゃんを待つのをあきらめ、街を見に行く ことにした。
ちょうどフェルナンドもそばに居たので、観光ポイントと私の趣味を考えて、 行くべきところを地図にチェックしてもらった。
眠くないのか聞かれたが、眠るのがもったいないと答えると、彼も同じ気持ちだった ようだ。
大きな通りに出るところまで、一緒についてきてくれた。
まずサン・イシドロ寺院に行く。
ここはロマネスク建築の傑作。 カテドラルとは対照的に、中は薄暗いが、なんと重厚な匂い。
レオン王の墓所である、由緒正しい寺院である。
ちょうどミサの最中で、イタリア人の巡礼仲間、イリデとファビオがいた。 私はこちらもとても気に入った。
ガウディのカサ・デ・ロス・ボティーネスは、中を覗いただけだが、こちらのステンド グラスは現代的な中間色が使われた、素敵なものだった。
今は銀行になっている ということだった。
他に教会をいくつか回る途中、パキとアンヘルに会い、今日はバルめぐりをすること になったと聞く。
そして、パキはグリちゃんについて、マリア(マラガ)から電話があり、グリちゃんとあけ みさんはは少し遅れているので、気にしないで進んで欲しいというメッセージをもら った。
二人はそのまま見学にでかけ、私はアルベルゲに戻る。
そこではみんな揃っていて、バルにくり出す準備をした。
元ジモティーのフェルナンドにくっついて、ホアン、フリオ、ラウラ、ミッチェル、ハビー 、ロジィーそしてパキとアンヘルに私の総勢10人で街にくり出す。
バル街はアルベルゲの近くで、まず一軒目でビールとモルシーリャ。
どこもたいてい得意の一品があり、この店ではモルシーリャなのだ。 それはブルゴスなどにもあるのだが、同じような材料を使っていながら、まったく 違った味だった。 豚の血と玉葱が入っているが、生臭さがなく、フワッとしている。これは酒好きには たまらない一品だった。
二軒目はポテトサラダと海老。
お金は誰かが順番に払っていく。
三軒目は私がオーダーしてみんなにお返しをすることにした。 何とオーダーすればいいのかフェルナンドに聞くと、スペイン語の、なが〜〜〜い フレーズを教えてもらった。聞き慣れない単語を並べて覚えこみ、混み合って 忙しそうなウェイターにやっとオーダー。 出てきたのはマッシュルームのガーリック炒めとアイオリソースが絡まったポテ トフライ。 これがまたおいしい!何度も追加してオーダーし、大好評の味だった。
ここで小さいグラスに入ったビールを、コルト(短いという意味)と呼ぶことを知り、 あとあとまで重宝した。
四軒目の店は生ハムのピンチョ。
すでにこの辺で、女性陣から
「フェルナンド、もう飲めないわ。」という声が聞こえていたが、ハビーが 「次はピザの店だよ!」   
とうとう5軒目に突入。
アンヘルは自分が飲みきれないビールを私に回してくる。 この小さなビールグラスで飲むと、おいしくていくらでもいけてしまうのだが、 ワインともチャンポンをしていたので、すっかり私もいい気分になっていた。

まだレオンの夜は賑やかで離れがたかったが、10時を過ぎたのでアルベルゲ に戻ると、すぐ隣の礼拝堂でミサが始まるところだった。
まず礼拝堂のドアが開く前にお話が続き、そしてドアが開き、真っ白い礼拝堂へ 入っていく。 中に浮かび上がる金色の立派な祭壇。回りが真っ白いから際立って美しい。
そこでのミサは、巡礼者だけのもの。
とても感動的なもので、雰囲気に飲まれて、涙が出そうだった。
いつものように、最後に隣りにいたフェルナンドとファビオに握手。 気がつけば、バルに行ったメンバーはほとんどここにはいない。
そして遥か前方に、カルメンらしき人の後ろ姿をみつけた。
私はミサが終わると同時に前へすすみ、確かめると、やはりそれはカルメンであっ た。
私たちは久々の再会に喜び、礼拝堂の外に出た時、カルメンのロマンスの噂をパ キから聞いていたので、からかって、カルメンの肩をつっつく。
彼女は幸せそのものの顔で笑っている。
そこへパキやラウラも来て、悪ノリ好きなパキもカルメンをつっつく。
私たちはそれだけで充分楽しくて、おかしくて、幸せそうなカルメンを囲んでいつ までもふざけあっていた。

アルベルゲの朝食
バルで
アルベルゲが満員のため、ここに・・・
乾杯してくれた男の子
足を冷やす、あけみさんに見送られて出発!
気持ちが良くて、足がどんどん進んでいく・・・が
電話をかしてくれた女性と、彼女を連れてきてくれた男性
サグーンの手前の小さな教会
教会内部
サグ−ンの駅
サグ−ンのアルベルゲとアンヘル
サグ−ンのアルベルゲ室内
サグ−ンのアルベルゲ
全部で1ユーロ
リチャード(オーストラリアン)
ロバさん
線路を渡った
レリエゴスのワイン工房
この店で食材を買う
今日のディナー
アルベルゲのキッチンから見た印象的な夕焼け
フェルナンド
バルで。オレンジジュースマシーン
マシーンで絞ったフレッシュオレンジジュースと、肉刺治療の基本、消毒液
この坂を登れば・・・
再び坂が出現・・・を、くり返し・・・
青い欄干の橋/お昼寝
レオンの旧市街とホアン
レオンのアルベルゲ前の広場
レオンのレストランで昼食/ホアン、フェルナンド、フリオ
レオン・カテドラル
レオン・カテドラルのステンドグラス
レオン・サン・イシドロ寺院
レオン・サン・イシドロ寺院内部
モルシーリャとフリオ
海老とポテトフライとラウラ&ミッチェル
マッシュルーム
レオンバルめぐり
ピザとホアン、ロジィ